「蟻族」―中国版ワーキングプア|経営学部ブログ|名古屋経済大学

「蟻族」―中国版ワーキングプア

初ブログで中国の「今」が見える新語を取り上げたいと思います。

中国では経済成長の陰を映し出す新語が急増しています。「蟻族」はその典型的な一つです。単純に言えば、ワーキングプアの大学卒業生集団を表現した新語で、2009年頃から盛んに言われるようになりました。高学歴であるにもかかわらず、給料の安い臨時的な仕事にしか就くことが出来ず、あるいは失業か半失業の状態にあり、家賃が安い大都市郊外の村に蟻のように身を寄せ合って暮らしている……。新しく形成したこの社会階層に名づけられた言葉が「蟻族」というわけです。

名づけ親は、中国対外経貿大学に勤務する廉思准教授。彼は博士研究員として北京大学の「中国と世界研究センター」で働いていた時期に、調査チームを組織し、北京で一年半におよぶ実態調査を実施しました。その結果をもとにまとめられたのが『蟻族:大学卒業生が集まり住む村の実録』(広西師範大学出版社2009年)というルポルタージュです。「出版後一ヶ月足らずでたちまち売り切れとなり」、「その後半年ばかりの間に10回近くも版を重ね、中国国内に広く『蟻族』の名が轟きわたることとなった」そうです。日本でも注目され翻訳も出されました。関根兼氏監訳の『蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ』(勉成出版2010年)という本です。

「蟻族」現象を生む背景には、急速な都市化、人口の仕組みの変化、高等教育体制の改革と新卒人口の増加、労働力市場の変化など複雑な要因があります。その状況下で「蟻族」の人口は増加し続けています。「2010年中国人材青書」によると、「蟻族」の人口は全国で推定100万人にのぼっており、北京地域だけでも10万人以上いるそうです。上海、武漢、広州、西安などの大都市にも多数存在しています。しかも「蟻族」の多くは、親の期待を背負って受験戦争を勝ち抜き、やっとの思いで大都市に出てきた農村出身者です。このように、中国の若者たちには、日本の「就職氷河期」や「フリーター」の問題よりも遥かに厳しい就職難とワーキングプアの現実が待ち受けています。

しかし廉思氏は次のようにも分析しています。「蟻族」は普遍的に諦めない精神をもっています。つらい状況においても、希望をもって大都市で奮闘し続けて自分の状況を改善しようとしています。社会の不公平にも敏感で正義感も強いです。「蟻族」という存在自体が中国社会の深層に横たわる問題を映し出しています。八方ふさがりの厳しい状況ではありますが、彼らには益々健気に困難に立ち向かってほしいものです。そして何よりも願ってやまないのは、中国政府と社会が一日も早くこうした状況を改善する積極的な方策を見出していくことです。  (李彩華

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