本年4月に、大学副学長に就任いたしました。以来、3ヶ月が経過いたしました。就任当初は、年度初めのこともあって、種々の案件処理や会議等が続いて、このブログを更新する暇もなく、こんにちに至ってしまいました。
本館2階にある副学長室で執務をしておりますが、就任当初は、必要最低限の書類・文献・資料等を移転しただけで、室の壁には、鈴木前副学長よりお預かりしてある、「狩野亭吉」書の額が掛けてあっただけでした。そこで、自分の研究室にずっと掲げてあった、「額」を飾ることにいたしました。この額に入れてある色紙は、大学および大学院時代の指導教授であった恩師・板橋郁夫教授から、私が大学への就職が決まり、研究者・教員としてスタートすることになった折りに、はなむけにいただいたものです。
その色紙には、「大樹」という字が書かれています。私が少し戯けて、これまで先生の庇護の下でご指導いただいたことへの感謝も込めて、「寄らば大樹の陰、ですね」と、申し上げましたところ、恩師はにっこり笑って、「そういうこともあるが、この『大樹』には、二つの意味を込めたんだよ、一つは、大樹のように、研究者・教員として大きく成長してほしい、という意味と、あと一つは、君、『大樹将軍』ということわざを知っているかね、これは、『後漢書』に出てくる故事に由来することばでね、」といって、中国、後漢時代の憑異(ひょうい)という将軍にまつわる故事を丁寧に教えてくださいました。この将軍は、他の将軍達が手柄話や自慢話をしているとき、一人静かに樹木の下に退いて功積を誇らず、謙虚な人柄であったため、他の武将や部下達からの信望が厚く、いつの間にか「大樹将軍」と称せられるようになった、「大樹」にはそういう意味もあるのだよ、君の人柄にふさわしいと思うから、と、温情溢れる激励をしてくださったのです。
歳月は流れて、あれから早や何十年!!あのとき頂いた色紙は、額に入れて、ずっと研究室に掲げてきましたが、このたび、副学長室に掲げることにしたのです。恩師のお教えを実現することはなかなか難しく、「大樹」の色紙を眺めては自省自戒の日々を送っている次第です。しかし、なにかの目標あるいは目的をもって、日々精進することはとても大切なことだと、恩師のありがたさを痛感しております。
実は、この色紙についての話は、数年前、本学大学院法学研究科の学位授与式で学生さん達への「祝辞」のなかで、少し触れたことがあります。覚えてくれていて、研究室を訪ねてくれた際に、「あ!これがあの色紙ですね」などと、いってくれます。教師にとって、「教え子」(古くさい言い方かな)は、力と勇気を与えてくれる存在です。
「大樹」
「初心忘るべからず」
平成21年度がスタートしました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
こころから、皆さんを歓迎いたします。
例年、この時期になると、思い出す言葉があります。「初心忘るべからず」です。
ご存じのように、「初心忘るべからず」という言葉は、室町時代の能楽者、世阿弥(ぜあみ)が「花鏡」という著書の中で述べている言葉ですが、入学式や入社式などで、よく引用されます。本来は、「能楽で、習い始めた頃の芸や、その頃の未熟さ、また、習練の各段階での最初の経験を忘れてはならないという戒め」(小学館『故事・俗信ことわざ大辞典』)といわれていますが、転じて、何事でも学び始めた頃の、謙虚に真剣に学ぼうとする心構えや、最初の決意をいつまでも忘れるな、という意味に解釈されています。
たしか、昨年の3月末か4月の初め頃だったと記憶していますが、NHKの朝のテレビ番組(「この人にトキメキ」の再放送であったかと思います)の中で、脚本家として有名な、橋田壽賀子さんが出演されていて、この「初心忘るべからず」を座右の銘としていると話されていました。橋田さんは、長い間の下積みの時代、なかなか脚本が売れなくて苦労したが、やっと採用されてそのドラマがテレビで放映されたときのうれしさと喜び、その充実感をズーと忘れないよう肝に銘じてきた、それが橋田さんのその後を支え、活躍の原動力になった、というような話をされていました。
私も、この「初心忘るべからず」という言葉が好きで、よく引用します。
新入生の皆さんは、いま、大学で専門的知識を体系的に修得したい、豊かな教養や知力を身につけたい、何か資格をとって卒業後の進路に活かしたい、信頼できる友人を見つけたい、スポーツやクラブ活動に汗を流したいなどなど、各自の目標に向かって、積極的な意欲と高い志を胸に抱いておられることでしょう。どうか、いまのその気持ちを忘れないで、精進してくださることを、期待しています。
進級して2年次、3年次、4年次になられた在学生の皆さんも、新たな決意と意欲をもって、新年度を迎えられたことと思いますが、本学へ入学された当時の「初心」を忘れないでいただきたい。とりわけ、4年次の皆さんは、卒業後の進路決定に向けて、各種資格取得のための試験や公務員採用試験等への対応、就職活動も本格化します。社会・経済状況がよくありませんが、情報をできるだけ収集して精査し、精神を集中して各自の目標達成のため邁進してください。
私たち教職員も、しっかりと皆さんをサポートしていきたいと考えています。




