消費税の軽減税率|経営学部ブログ|名古屋経済大学

消費税の軽減税率

今夏、税率引き上げによる消費税増税が決まりました。1989年の消費税導入、そして97年の消費税増税はともに所得税の減税とセットでおこなわれてきました。しかし今回は、戦後初めてともいえる正味の増税です。消費税はこんにち基幹税のひとつとなっていますが、所得が低い人ほど税負担が重くなる逆進性の強い租税です。そこで、生活必需品などへの税率を低くする軽減税率を導入すべきかが検討されています。

ところで、先日までロンドンオリンピックが開催されていた英国では最近、その軽減税率をめぐって論争が巻き起こりました。そのきっかけは、肉や野菜を詰めて焼いた「パスティ」(写真出所:「ウィキペディア」)という半円形状のパイに税金をかけようとしたことです。「パスティ」はフィッシュ&チップスと並ぶ庶民の味として人気の国民食です。英国には、日本の消費税にあたる付加価値税があり、ものを買ったりサービスを受けたりすると原則20%の税金がかかります。税率だけみると、単純に現在の日本の4倍です。そのため低所得者の税負担に配慮し、電気料金や暖房などの家庭燃料費は5%、食料品や書籍・新聞、子ども服などは原則0(ゼロ)%などと、税率が軽減されているものがあります。

しかし、英国の軽減税率はとにかく複雑です。なかでも食料品のうち、家庭に持ち帰って食べる総菜は、原則として温かいものは20%、温かくないものは0%、温めているものであっても品質を保つ目的であれば0%とされ、線引きが非常に曖昧でした。その線引きを明確化するため、英国政府は「10月から、気温より温かい食べ物には20%課税する」という税制改革案を発表しました。それまで税率0%であった「パスティ」も対象となってしまいました。ところが、欧州債務危機を受け昨年に増税されたばかりであったこともあり、日常食への課税ということで、予想を超える市民や業界からの大ブーイングが湧き起こり、英国政府は同案の修正を余儀なくされました。

日本においても家庭に持ち帰って食す総菜などは、外食と家庭内食との中間に位置するため「中食」といわれ、その家計消費支出は年々大きくなっています。英国の軽減税率をめぐる混乱は、近い将来の日本を見るかのようです。低所得者への配慮とともに、消費税増税批判の緩和的役割として期待される軽減税率については、何にかけて何にかけないかで、一騒動は免れないでしょう。そもそも消費税増税は、私たち市民の将来にとって本当に間違いのない政策でしょうか。子どもも、非正規雇用者も、生活保護者であってもすべての市民が買い物をするたびに、一律に課税される。広く薄くというがこれが公平な租税であろうか。近年、税の基本機能のひとつ「富の再分配」が蔑ろにされているのではないか。
経営学部・中村 壽男