身の回りから考える経済学
昨年は、東日本大震災や台風による水害などまさにたいへんな年だった。新聞を見ると、こうした災害に便乗した悪質商法が頻発しているという。被害を受けた家の屋根工事で高額の修理代を請求したり、放射性物質を取り除くことができるとうたった浄水器を売りつけるなどである。また、「被災地支援をやっている会社だ」などと称して、実態がない会社の社債や未公開株を売りつける例も見られるという。
こうした商法は、被災者の窮状や、被災地支援に少しでも役に立てばという人々の思いに付け込んだ言語道断の悪行であるが、その手口を仔細に見ると、経済の仕組みや消費者の心情を巧みに突いた勧誘が行われている。被災地と言うこともあり正確な情報が伝わりにくいのをよいことに、商品やサービスの供給が限られている状況を悪用して消費者を不当な取引に追い込んでいる。怪しげな未公開株や社債の売りつけの例では、「近く上場予定」とウソを言ったり、「絶対儲かる」と断言したり、さらには、売り手だけでなく、「持ってるなら高く買いますよ」と誘う第三者の買い手まで登場させる、いわゆる「劇場型」も増えている。しかも、これら事例に共通して、契約をためらう消費者に対しては、「今だけ」、「今日だけ」、「あなただけ」特別有利な条件で、と取引を急がせるものが多い。
市場経済の下では、需要と供給の一致するところで価格が決まり取引が行われる、それによって人々の満足感や社会全体としての効用も最も大きくなると言われる。しかし、それには正確な情報がきちんと提供されて、消費者が合理的に判断できることが大前提となる。先の悪質商法の例などは、この大前提を巧みにすり抜けて、消費者に「目隠し」をしたまま不当な取引を強いるようなものであり、およそ社会全体の効用にはつながらない。
こうした悪質商法に立ち向かうには、私たち一人ひとりがその取引や契約の怪しげな点を見抜く眼力を持たないといけない。万一トラブルに遭った時には、消費者を保護するための法制度が身を守る武器となる。
本学は、「生産→流通→消費」という経済活動について、消費の側面を原点として考えることからスタートした。開学当初より「消費者問題研究所」が設置されている。分厚く難解な経済書を読み解くよりも、生活の現場から経済の成り立ちや仕組みを考える、まさに「身の回りから考える経済学」である。この基本スタンスは、今日の複雑・高度化した経済社会の本質にアプローチしていく上で、ますます重要になっていると言えるだろう。 (田口 義明)