経済?経営?それとも法律?―「ハイブリッド型」のすすめ―
本学には社会科学系分野として、経済、経営、法の3学部がある。それぞれどう違うのか、どれを選んだらよいのかとよく聞かれる。
その質問への「答」はさておくとして、これまで自分自身がこれら3分野にどう関わってきたのかを振り返ってみると、かなり重なり合っているというか、実に錯綜しているなと感じる。
学生時代は法学部に所属したが、実際には経済学部にかなり入り浸っていた。法律の世界は、高校時代までではほとんど接することがないこともあって大変興味深い分野だと思う一方で、生き生きとした経済の実態やメカニズムにも触れてみたいと思ったからである。法学部の授業を「一応」受ける傍らで、隣の経済学部の授業を「目一杯」聴講した。両学部の講義を見比べ(聴き比べ?)、ものの考え方だけでなく、現実社会の違った側面に触れることができて、けっこう面白かった。講義をする先生の気質も真四角と楕円くらいの違いがあった。
そうしたこともあってか、大学卒業と同時に経済企画庁という役所に入った。採用面接に当たって、偉そうな感じの面接官から「法学部を卒業して、なんでウチを志望するの?」と聞かれた。世の中には、法律と経済は別世界と思い込んでいる向きもあるようだが、当時の私は内心、「なんでそんな質問をするんだろうか?」と不思議に思ったものである。ともあれ、どういうわけか採用されることになった。
入ってみると、どこの学部出身かに係わりなく、仕事はけっこう面白かった。GDPの分析、経済見通し、景気対策、経済白書作りなどに携わって、まさに現実の経済の動きを間近に見ている気がした。学生時代に他学部生として学んだ経済学がそのまま役に立つということではなかったが、「経済」に向かい合う上でのものの考え方、いわばフレームを提供してくれるように思った。生意気にも「経済」が少し分かった気になった。
しかし、公正取引委員会で仕事をする機会を得て、少し見方が変わった。独占禁止法という経済活動を規律する「法律」の運用、特に「独占的状態の規制」ということで、寡占度の高い産業の市場構造や上位企業の行動、さらにはその市場のパフォーマンス(収益率、価格、コストの動向など)を見る仕事だった。そこでは、「経済」というよりも、それを実際に動かしている「企業」に着目するものだった。経済企画庁では、なんとなく「経済」をひとつの固まりのように見て、そのいわば総体が上昇したり下落したりするように思っていたが、経済の現場はどうもそれとはかなり違うようだ。実際に経済を動かしているのは個々の「企業」の活動、言い換えれば「経営」なのだと強く思うようになった。
一方、経済企画庁とその後身である内閣府では、経済問題全般と並んで、消費者行政など「生活」や「社会」に係わる仕事に長年取り組んだ。こうした分野で仕事をする上では、学生時代に一応学んだ「法律」の枠組み・知識は極めて有益だった。製造物責任法、消費者契約法、NPO法などいくつかの法律の制定や改正の作業に携わってきたが、ひとつの法律をめぐって様々な人々や集団がそれこそ「しのぎを削る」実態を垣間見ることとなった。まさにこれが「社会」の一面なのだなと実感した。
ということで、これまでの社会人生活を振り返って今思うのは、現実の「経済」は、教科書にあるような経済メカニズムだけで動いているわけではなく、一定の「法律」の枠組みの下で、さまざまな「企業」がいろいろな行動をする、モノやサービスを選択して買う「消費者」もいる、それらのいわば集積体として成り立っている、と見ることができるのだろう。だから、どの分野で仕事をするにせよ、「経済」、「経営」、「法律」の知識や考え方は、どれもとても大切で有益だなと痛感する。
話変わって、現在は本学の経済学部で教鞭を執っている。講義科目は、消費者政策の他、消費者法とか経済法である。学生時代とはメインとサブが入れ替わったが、相変わらず「法律」、「経済」の二股、或いは「企業・経営」や「社会」の問題なども含めた混合体だなと思う。ひとつの学問分野を首尾一貫究めるというのはたいへん貴重なことだと思うが、その対極というか、二股、三股もけっこう面白いものである。社会に出ると極めて役にも立つ。ということで、本人は、「これこそハイブリッド型!」と勝手に思い込んでいる。エッ!「それは単なる浮気性だよ」ですって?イエッ!そんなことありません。これ、オススメですよ。
(田口 義明)